母は76歳のとき、長年暮らしてきた戸建てを離れ、中古マンションへ住み替えました。
最初から「老後はマンションで暮らそう」と考えていたわけではありません。
むしろ、それまでずっと戸建てで暮らしてきた母にとって、マンションはあまり馴染みのない住まいでした。
それでも今、80代になった母は「ここに来て良かった」と言います。
娘の私から見ても、あのとき住み替えてくれて本当によかったと思っています。
今回は、母が長年暮らした戸建てからマンションへ住み替えることになったきっかけと、実際に暮らしてみて感じたことをお話しします。
母が暮らしていたのは、私と同い年の家
母が以前暮らしていたのは、私が生まれる直前に引っ越した戸建てです。
大工の棟梁だった祖父が建てた家でした。
その家は、私にとって言わば「私と同い年の家」です。
当時、その地域は開発中の大きな団地でした。
団地内には、市営の平屋住宅や4階建ての集合住宅がいくつもあり、子どもの数も多く活気がありました。
それから30年、40年と時間が経つにつれて、街の様子は変わっていきました。
子どもたちは成長して団地を離れ、親世代は高齢になります。
団地の中にあった2軒のスーパーや個人商店も、少しずつ閉店していきました。
かつて子育て世代にとって暮らしやすかった場所は、高齢者が生活するのに便利な場所ではなくなっていったのです。
築年数とともに、家の不具合も増えていった
家も年齢を重ねました。
祖父が建てた家はしっかりした家でしたが、長い年月が経てば、どうしてもあちこちに不具合が出てきます。
そして、家のことをよく分かっている祖父はもういません。
何か不具合が起こるたびに、業者を探して修理をお願いしなければならなくなりました。
私と、母の近くに住む妹も「この先、母がこの家で一人暮らしを続けて大丈夫だろうか」と少しずつ心配するようになっていました。
私たちが心配していたのは、家の古さだけではなかった
古い戸建てでの暮らしは、母が年齢を重ねるにつれて気になるところが増えていました。
昔ながらの家なので、冬場のお風呂はとても寒かった。
また、家の日当たりがあまりよくなかったため、母は外階段を上がった倉庫の上のスペースに洗濯物を干していました。
あるとき、その階段から母が落ちたことがあります。
幸い、大きなけがにはならず、擦り傷程度で済みましたが、「今回は大丈夫だったけれど、もっと年を取ってから同じことが起きたら?」と思わずにはいられませんでした。
庭木の手入れ、階段や段差もあります。
買い物ができるスーパーも、以前より遠くまで行かなくてはならなくなりました。
高齢の親の暮らしでは、元気なうちには想像していなかった「まさか」が突然起こることがあります。

住み替えの決定打は、大型台風による雨漏りだった

母が住み替えを具体的に考えるきっかけになったのは、大型台風でした。
台風のあと、屋根の瓦がずれたのか、家に雨漏りが起きました。
最初、母は屋根を修理するつもりでした。
ところが、見積もりを取ってみるとそれなりの額です。
もちろん、屋根を直せばまた住むことはできます。
でも、すでに築年数の経った木造住宅です。
今回屋根を直しても、次は別の場所に修理が必要になるかもしれません。
外壁、水回り、設備など、これから先も手を入れなければならない場所が出てくる可能性があります。
最初からマンションを探していたわけではない
そして屋根の修理ではなく、住み替えを検討し始めました。
最初に探したのは築年数の浅い戸建てでした。
妹と一緒に数件見て回ったものの、なかなか希望に合う家が見つかりませんでした。
そこで改めてマンションも選択肢に入れ、何件か見学することになりました。
しかし母は最初、マンションへの住み替えにはあまり乗り気ではなかったそうです。
ずっと戸建てで暮らしてきたので、マンションで暮らすというイメージそのものがなかったのだと思います。
最終的に、3〜4件ほど見た中で今のマンションが条件に合いました。
母が特に重視していたのは、まず買い物が便利なこと。
そのほかにも、予算内で購入できること、築年数、窓からの景色の良さなどを見て決めたそうです。
駅までは徒歩10分圏内、スーパーやドラッグストア、ホームセンターもすぐ近くにあります。
さらに、たまたま妹の家から徒歩3〜4分という場所でした。
「老後のために、この条件のマンションを探そう」と綿密に計画して見つけたわけではありません。
いくつか物件を見ていく中で、今の母の暮らしに合うマンションに出会ったという方が近いと思います。
でも結果として、それが80代になった今の母にとって、とても暮らしやすい場所になりました。
戸建てからマンションへ。最初は戸惑うこともあった
長年の戸建て暮らしからマンション暮らしへと住み替えて、初めの頃は戸惑いや失敗もありました。
「こんなに収納がないの?」
母は住み替えにあたって、かなり荷物を減らしたそうです。
それでも、引っ越したあと「マンションって、こんなに収納が少ないの?」と言っていました。
私は逆に、母一人の荷物だけですし、分譲マンションなので、それほど収納が少ないとは感じませんでした。
でも考えてみれば、ずっと戸建てで暮らしてきた人の感覚は違います。
戸建てには押し入れや物置など、「とりあえず置いておける場所」が意外とたくさんあります。
戸建てからマンションへ移るというのは、持ち物の量も減らすことになりました。
結果的には、これも生活をコンパクトにする、いい機会だったのではないかと思っています。
祖父母が暮らしていた実家の大量の荷物を、母が整理した記事はこちらから

ゴミ捨てでオートロックから締め出されたことも
住み始めた頃には、こんなこともありました。
母がゴミ集積所にゴミを捨てに行こうと、鍵を持たずにマンションの外に出てしまったのです。
マンションはオートロック、当然部屋に戻れません。
幸い妹にスペアキーを渡していたため、徒歩数分の妹の家まで鍵を借りに行ったそうです。
なるほど。
戸建てなら敷地内のゴミ箱にゴミを出しに行くとき、いちいち鍵を持って出ないから起こった失敗だなと思いました。
マンション暮らしに慣れている人には当たり前でも、長年戸建てで暮らしてきた母には当たり前ではありません。
そんな小さな失敗もしながら、少しずつ新しい暮らしに慣れていきました。
元の家が売れたのは、住み替えてから約2年後
母がマンションへ引っ越すことになり、元の戸建ては売却することになりました。
不動産会社からは、比較的早く売れるのではないかと言われていたそうです。
ところが、実際にはなかなか買い手がつきませんでした。
途中で「少し売値を下げましょう」という提案があり、価格を下げたそうです。
母も、ときどき家の様子を見に行っていました。
最終的に売却できたのはマンションへ住み替えてから、およそ2年後でした。
住み替えを考えるときには、今住んでいる家がすぐ売れるとは限りません。
母の経験を見ていると、そんなことも頭に入れておいた方がいいのだと思います。
私と同い年の家を、動画に残してもらった
家が売れたと聞いたとき、私はホッとしたと同時に、少し寂しい気持ちになりました。
あの家は私にとって、自分と一緒に生まれ、同じ年月を共に過ごしてきた家でした。
私は遠方に住んでいるため、売却前に最後に見に行くことができませんでした。
そこで妹にお願いして、家の中や家の周りを動画で撮影してもらいました。
その映像をDVDにしてもらい、今も持っています。
古くなった家を手放した、言葉にすればそれだけのことかもしれません。
でも、長く暮らした家には家族の記憶があります。
住み替えは、便利さやお金だけでは決められない部分もあるのだと思います。
それでも母は、自分で次の住まいを見て、考えて、選べるときに新しい暮らしへ移ることができました。
今振り返ると、それがとてもよかったと思います。
母は住み替えだけでなく、元気なうちから少しずつ整理してきました。母の終活についての記事はこちらから

80代になった今、母が「住み替えてよかった」と感じること
現在、母はマンション暮らしにもすっかり慣れました。
母自身が特によかったと感じているのは、買い物が便利なことと、お風呂が寒くないこと。
どちらも毎日の生活に直結することです。
家の修理や庭の手入れを気にする必要もありません。
若いときには「少しくらい不便でも大丈夫」と思えることでも、年齢を重ねると、その少しの不便が大きくなっていきます。
ひとつひとつは小さなことでも、毎日のこととなると負担になります。
最初はマンションに住むこと自体、想像もしていなかった母です。
その母が今、「ここに来て良かった」と言うのですから、よほど今の暮らしが合っているのでしょう。
娘の私が感じるのは「暮らしやすさ」以上の安心
母が感じているメリットは、買い物やお風呂など毎日の暮らしやすさです。
一方、娘の私が感じているメリットは少し違います。
高齢の母が安全に暮らしていることの安心感です。
以前の家には階段も段差もありました。
また、高齢者の戸建て一人暮らしは、防犯面も気になります。
もちろん、マンションだから絶対に安全というわけではありません。
それでも、あのまま古い戸建てに80代の母が一人で暮らしていたら、心配事は今よりずっと多かったと思います。
親の住み替えは「住めなくなってから」でなくてもいい
戸建てにもマンションにも、それぞれ良いところと大変なところがあります。
住み慣れた家でできるだけ長く暮らしたい人もいるでしょう。
住む地域や人間関係、家族との距離、資金面によっても答えは違います。
母の住み替えを通して感じたのは、住めなくなってから住まいを変えるのではなく、まだ元気なうちに「この先もここで暮らしていけるだろうか」と考えてみること。
そして親の老後の住まいを考えることは、年を取っていく親の「この先の暮らしを少し楽にする方法」を考えることです。
