親の認知症に備えて確認したいお金と家のこと|家族信託と成年後見制度

親が高齢になり、物忘れが増えたり、お金の管理が難しくなったりしたとき、家族はどこまで手助けできるのでしょうか。

  • 家族なのだから、必要になれば親の預金を介護費用に使える
  • 親が住まなくなった家なら、子どもが代わりに売却できる

そんなふうに思っている人もいるかもしれません。
でも、家族が生活を支えていることと、本人の財産を法的に管理・処分できることは別です。

叔母と母の経験を見て、「本人が元気なうちに、お金や家について少し整理しておくことには大きな意味がある」と感じるようになりました。

この記事では、成年後見制度と、一般に「家族信託」と呼ばれる親族間の民事信託について、叔母のケースを交えながら考えていきます。

※2026年8月現在、成年後見制度については2026年6月に大きな法改正が成立していますが、改正部分はまだ施行されていません。この記事では現行制度をもとに説明し、改正内容についても後半で触れます。
 改正法は2026年6月17日に成立、6月24日に公布され、成年後見制度に関する改正は公布から2年6か月以内の政令で定める日に施行される予定です。 

目次

一人暮らしの叔母に現れた小さな変化

未婚の叔母は両親が亡くなった後、一人で暮らしていました。
母は年の離れた姉である叔母を気にかけ、こまめに家へ通っていました。

叔母が年齢を重ねるにつれて、暮らしの中に少しずつ変化が現れるようになりました。

  • 部屋をうまく片付けられなくなる
  • どこに物を置いたのか分からなくなる
  • 家に同じ物があるのに、また買ってくる

以前なら普通にできていたことが、少しずつ難しくなっていったのです。

母が心配したのは、生活面だけではありません。
判断力が低下してきた叔母が、悪意のある人にだまされたり、必要のない契約をしてしまったりするのではないか。
お金の面でも不安を感じるようになりました。

認知症や判断能力の低下は、ある日突然、「今日から何も判断できません」と線を引けるものではありません。
小さな変化が重なるうちに、本人と今後の財産について落ち着いて話し合える時間が少なくなっていくこともあります。

母は事情を知っていた。でも財産を動かす権限はなかった

叔母が暮らしていた家は、もともと母たちの両親の家でした。
両親が亡くなった後、その家は叔母だけのものではなく、親族との共有名義になっていました。
母はそのことを知っていました。

しかし母自身は、その家を相続しておらず、所有者でもありません。
叔母が一人で暮らせない状態になっても、母の判断だけで決めることはできません。

事情を知っていることと、財産を動かす権限があることは別です。
これは、叔母のケースを見ていて強く感じたことでした。

家族が支えていても、本人の財産は自由に動かせない

母は叔母の家へ通い、買い物や片付けなど日常生活を支えていました。
でも、生活を手伝うことと、本人に代わって法律上の手続きをすることは同じではありません。

家族だからというだけで、当然に、

  • 預貯金を解約する
  • 金融商品を売却する
  • 保険を解約する
  • 不動産を売却する
  • 本人に代わって重要な契約を結ぶ

といったことができるわけではありません。

「認知症になった瞬間に、銀行口座がすべて一律に凍結される」という意味ではありません。
ただ、金融機関などが本人の意思を確認できない状態になれば、払い戻しや解約などの手続きを進めにくくなることがあります。
通帳やキャッシュカードを家族が預かっていることと、正式な代理権があることも別です。

前の記事では、介護費用を考えるときは、まず本人の年金や資産を確認することについて書きました。

本人に十分な資産があっても、必要なときに、そのお金を本人のために使える状態になっているかという別の問題があります。

判断能力が低下した人を支える「成年後見制度」

認知症などによって判断能力が十分でなくなった人を、法律面から支える仕組みの一つが成年後見制度です。
成年後見制度には現在、法定後見制度任意後見制度があります。

現行の法定後見制度

2026年8月現在の法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて、

  • 後見
  • 保佐
  • 補助

の3つに分かれています。

法務省では、対象となる状態をそれぞれ、

  • 後見:判断能力が欠けているのが通常の状態
  • 保佐:判断能力が著しく不十分
  • 補助:判断能力が不十分

と整理しています。 

家庭裁判所が成年後見人・保佐人・補助人を選び、本人の状態や審判の内容に応じて、財産管理や法律行為を支援します。

たとえば保佐では、借金や不動産売買など一定の重要な行為について保佐人の同意が必要になり、必要に応じて特定の法律行為について代理権を与えることもできます。

補助では、本人の同意を前提に、必要な特定の行為について同意権・取消権や代理権を与える仕組みです。 

元気なうちに準備できる「任意後見」

もう一つが任意後見制度です。
任意後見は、本人に契約内容を理解できる判断能力があるうちに、「将来、自分の判断能力が低下したら、この人にこの事務を任せたい」という内容を公正証書で契約しておく仕組みです。

実際に本人の判断能力が低下し、家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると、任意後見契約の効力が生じます。 
任意後見は、「誰に任せるか」「何を任せるか」を本人が元気なうちに考えておけるところが、法定後見との大きな違いです。

2026年に成年後見制度の大きな改正が成立した

ここは今後、この記事で特に注意して更新したい部分です。

2026年6月、成年後見制度を大きく見直す改正法が成立しました。
改正後は、現在の「後見」「保佐」を廃止し、「補助」を中心とした仕組みに見直す方向となっています。

判断能力の程度だけで一律に大きな権限を与えるのではなく、本人が実際に必要としている支援の内容に応じて、代理権や取消権などを組み合わせる仕組みへ変わります。 

現行制度では、一度法定後見が始まると、申立てのきっかけとなった問題が解決しても、原則として本人の判断能力が回復するか亡くなるまで制度が続きます。 
こうした点も含め、「必要な支援を、必要な範囲で利用しやすくする」方向へ見直されます。

ただし、2026年8月現在はまだ施行前です。
今、実際に成年後見制度を利用する場合は現行制度が適用されます。
施行時期が決まり、家庭裁判所などから具体的な運用が示された段階で、この記事も更新する予定です。

元気なうちに準備する方法の一つ「家族信託」

本人が契約内容を理解し、自分の意思を示せるうちにできる財産管理の方法として、親族間で信託を利用する方法もあります。
一般に「家族信託」と呼ばれるものです。

法務省も2026年3月、認知症などに備えた財産管理に親族間の信託を活用する方法について、一般向けのパンフレットを公表しています。 

  • たとえば、親が自分の財産を、信頼できる子どもへ託す。
  • 子どもは、契約で決めた目的に沿ってその財産を管理する。
  • そこから生じる利益や財産は、親本人の生活や介護のために使う。

という設計が考えられます。

一般的には、

委託者

財産を託す人

受託者

託された財産を契約に沿って管理する人

受益者

その財産から利益を受ける人

という関係になります。
認知症対策として利用する場合、

親=委託者兼受益者
子=受託者

とする設計もあります。

ただし、家族信託は万能ではありません。
たとえば、

  • 信託していない財産まで管理できるわけではない
  • 他人が所有する財産を動かせるわけではない
  • 共有不動産なら、別の共有者の持分まで自由に処分できるわけではない
  • 契約時に本人が契約内容を理解し、自分の意思で決められることが重要

といった限界があります。
なので「認知症対策なら、とりあえず家族信託をすれば安心」とも言えません。

遺言書があっても、共有していた家の問題は残った

叔母は、自分の財産を母へ引き継がせる内容の遺言書を残していました。
そのため叔母が亡くなった後、叔母自身の家の持分は母へ引き継がれました。

でも、家全体が母のものになったわけではありません。
その家は叔母だけの所有ではなく、別の親族との共有だったからです。

祖父母が亡くなった後、叔母と親族が共有していた家で、その後、別の共有者の持分は県外に住む親族へ引き継がれました。
家全体を売るには、共有者との話し合いが必要です。

母も家の権利関係を知っていました。
叔母も遺言書を残していました。
それでも、別の所有者がいる以上、叔母や母だけで家全体の処分を決めることはできなかったのです。

その間、空き家になった家の管理や家財の片付けなど、実際の作業は母が担いました。
最終的には、母と別の共有者が話し合うことができ、家を売却することができました
この経験から、遺言書は大切だけれど、遺言書ですべての財産問題が解決するわけではないことも分かります。

遺言書で決められるのは、基本的に本人自身の財産についてです。
共有している相手の財産まで変えられるわけではありません。

叔母が家族信託を使っていれば、解決したのか

母は成年後見制度については知っていましたが、当時は家族信託という方法を知りませんでした。

では、叔母が元気なうちに家族信託を利用していたら、問題は解決したのでしょうか。
私は、必ずしもそうではなかったと思います。

たとえば叔母の家の持分を信託に入れ、母などが受託者として管理できるようにしていたとしても、それは叔母自身の持分についての話です。
別の共有者の持分まで、叔母や母が自由に売却できるようになるわけではありません。

つまり、仮に家族信託を利用していたとしても、
家全体の売却には、別の共有者との調整が必要だったはずです。

それでも、叔母に判断能力があるうちに専門家へ相談していれば、

  • 叔母がどの財産を所有しているのか
  • 家の持分はどうなっているのか
  • 誰に財産管理を任せたいのか
  • 将来の介護費用としてどう使いたいのか
  • 遺言書と家族信託をどう組み合わせるのか
  • 共有不動産にどのような問題が起こり得るのか

といったことを、もっと早い段階で整理できた可能性はあります。
家族信託は、問題をすべて解決する魔法の制度ではありません。

でも専門家へ相談することで、「この家庭では何ができて、何ができないのか」を知るきっかけにはなります。

親が元気なうちに確認しておきたい「お金・家・希望」

親の財産について、いきなり「貯金はいくらあるの?」と細かな金額まで聞き出す必要はないと思います。

まずは、何かあったときに家族が困らない程度に、全体像を知っておくところからでもよいのではないでしょうか。

お金について

確認しておきたいのは、

  • 主に使っている銀行や証券会社
  • 年金
  • 保険
  • 借入れの有無
  • 通帳や重要書類の保管場所
  • 財産管理を誰に任せたいか

などです。
暗証番号まで家族で共有しておく、という意味ではありません。
まずは、「どこに何があるのか」が分かることが大切です。

家について

家は特に確認しておきたい財産です。

  • 登記上の名義は誰か
  • 単独名義か共有名義か
  • 共有なら誰と共有しているのか
  • 自宅で暮らせなくなったらどうしたいか
  • 将来売却する可能性があるか
  • 売却したお金を介護費などに使いたいか

叔母のケースのように、本人が「自分の家」だと思っていても、法律上は共有不動産であることもあります。
まず登記を確認して、実際の権利関係を知ることは大切です。

本人の希望について

制度より先に聞いておきたいのが、本人の希望です。

  • 自分のお金を何のために使いたいのか
  • 誰に管理を任せたいのか
  • 施設へ入ることをどう考えているのか
  • 家を残したいのか、必要なら売ってもよいのか
  • 亡くなった後、誰に財産を引き継いでほしいのか

本人のお金や家を、最後まで本人自身の暮らしのために使えるようにすること。
そこが一番大切だと思います。

家族信託と成年後見制度は「どちらがいいか」ではない

家族信託と成年後見制度を比べると、「結局どちらを選べばいいの?」と思うかもしれません。
でも、二つは単純に優劣を比べる制度ではありません。

2026年8月現在の大まかな違いを整理すると、次のようになります。

スクロールできます
比較する点家族信託成年後見制度
主な準備・利用時期本人が信託契約を理解できるうち法定後見は判断能力低下後でも利用。任意後見は元気なうちに契約
管理する人契約で受託者を決める法定後見では家庭裁判所が選任
対象信託契約に入れた財産本人の判断能力や審判内容に応じて法律行為・財産管理を支援
目的契約で決めた目的に沿った財産管理本人の権利・財産・生活を法的に支える
家庭裁判所通常の民事信託では常時の監督はない法定後見では家庭裁判所が関与

家庭によっては、

  • 遺言書
  • 任意後見
  • 家族信託
  • 金融機関の代理人制度

などを組み合わせて考えることもあります。
だからこそ、制度名から選ぶのではなく、まず「何に困りそうなのか」を整理することが大切です。

制度が分からないからこそ、専門家に相談する

親のお金や家をめぐる状況は、本当に家庭によって違います。

預貯金だけの人。
複数の不動産がある人。
共有不動産がある人。
株式などの金融資産がある人。
子どもが一人の場合もあれば、きょうだいや親族との関係が複雑な場合もあります。

叔母のケースも、単純ではありませんでした。
遺言書があっても共有不動産の問題は残りました。
家族信託を利用していたとしても、別の共有者の持分まで動かせたわけではありません。

だから私は、「家族信託をした方がいいですよ」と一律にすすめることはできないと思っています。

成年後見制度が合う家庭もあるでしょう。
任意後見を準備する人もいるでしょう。
遺言書だけで十分なケースもあれば、複数の仕組みを組み合わせる方がよい場合もあります。

制度は一般の人にとって分かりにくく、家庭の状況もそれぞれ複雑です。
だから、「うちの場合はどうなのだろう」と思った段階で、一度専門家へ相談してみる。

専門家に財産や家族関係を説明し、できる方法とできない方法を整理してもらう。
それだけでも意味があると思います。

まとめ|制度より先に「本人のお金をどう守り、使うか」を考える

叔母のケースでは、母は家の権利関係を知っていました。
でも母自身は所有者でも、叔母の法的な代理人でもありませんでした。

叔母が判断することが難しくなっても、「家族だから」という理由だけで、叔母の財産や家について自由に決めることはできませんでした。
この経験からまず考えたいのは、

  • 親にはどんな財産があるのか。
  • そのお金や家を、本人は高齢になった自分のためにどう使いたいのか。
  • 誰に何を任せたいのか。

と言う希望です。
そして、その希望を実現するために、

  • 遺言書なのか。
  • 任意後見なのか。
  • 家族信託なのか。
  • 成年後見制度なのか。

何が必要なのかを考える。

制度から考えるのではなく、本人の希望から制度を選ぶ。
叔母と母の経験を見て、私はそれが大切なのだと思うようになりました。

親が元気で、自分の希望を自分の言葉で話せるうちに、「もしものとき、どうしたい?」と少しずつ話しておく。

そして状況が複雑なら、家族だけで答えを出そうとせず、一度専門家へ相談してみる。
問題が起きる前だからこそ、選べる方法があります。

この記事を書いた人

「ひとりだちノート」運営|元銀行員。
 
家計・資産づくり、親の見守りや暮らしのサポートを実体験から発信。
自分と親の「これから」を少し安心にするヒントをお届けします。

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